スタートアップ登竜門のY Combinatorで2017年冬バッチのデモデー(Demo Day)が開催された。以前、Y Combinatorはどこへ向かうのか -マフィアかGoogleか-で書いたように、Yコンビネータの企業は創業者たちの結びつきが強く、スタートアップ界隈で強い影響力を持っている。今期の一つの特徴としては、アフリカ、ラテンアメリカ、インドなどからの参加企業が多く、グローバルに起業家ネットワークが広がりつつある。CEOのサム・アルトマン自身も「私にはこれが未来のように思える――個々の企業による複数の大きなグループが、ゆるやかにつながっている。」と述べており、ソフトバンク孫社長が掲げる起業家集団の構想とも重なる。

もう一つの特徴は、ティム・ケリーが近著で述べていた通り、「AI×◯◯」という形であらゆる産業向けにAIを使ったアプリケーション開発を手がけるスタートアップが増加していることだ。カスタマーサポートからヘッジファンドの運用まで幅広いほか、AI時代のプラットフォームを狙う企業も見られた。

以下、あくまで私的メモだが、自分の興味がある人工知能、ロボット、製造周りのスタートアップをまとめておくので、参考になれば幸いだ。

AI・ロボットのスタートアップ

AON3D – 3D printers for industrial manufacturing

  • 産業用に使える3Dプリンタを$15,000ドルで提供(従来の10分の1)。PEEK樹脂も使用可能。
  • 33台を既に出荷済みで$450,000の収益(60%のマージン)を確保。フルスケール産業機械は300億ドルの市場。

 

Vinsight – Crop yield forecasting

  • アメリカの農家は予測の失敗によって年間11億ドルを失っている(その多くはガッツフィーリング)。
  • 衛星画像、天気、過去のレポートのデータなどから農作物の収穫率を予測する機械学習アルゴリズムを開発し、従来より4倍良い性能。
  • 1エーカーあたり$25でサービスを提供し、世界最大のワイナリーや2番目に大きなアーモンド農家に導入済。40億ドルの市場を狙う。

 

Clover Intelligence – Voice analytics for sales

  • 70%のカスタマーとのインタラクションが電話越しに行われているが、メール向けのツールなどのようなものは少ない。
  • 音声解析をして、販売戦略向けにレコメンドをしてくれる。もしセールスパーソンが製品の機能ばかり説明して価値について説明しない、間違ったタイミングで押しが強いセールスをしてしまう、などの改善について、これまではマネージャーがデータなしにやっていたことを助けてくれる。
  • 実際に、顧客のなかにはコンバージョンレートが300%になったところも。利用は月々シートあたり$150

 

Cambridge Bio-Augmentation Systems – Plug-and-play standard for human bionics

  • 人間の身体にとってのUSBポートを作りたい。あらゆる生体デバイスと接続可能な低価格のインプラントを開発。
  • 豚の脚から神経インプラントを介してデータのストリーミングにも成功している。
  • 切断手術を受けた人だけでも年間90億ドルの市場になる。既に10社が同社のプラットフォームにスイッチした。

 

Cowlar – Fitbit for cows

  • 牛に太陽発電式センサーを取り付け、病気の感染や妊娠の状態を歩容などから分析。
  • 一頭あたり69ドルのセンサー+月々3ドルのサブスクリプション。乳牛向けに110億ドルの市場、更にはその3倍大きな肉牛市場も見据える。

 

Quiki – Intelligent FAQs

  • 72%の顧客がオンラインのセルフサービス型のサポートを好んでおり、また、企業としてもコールセンターを作るよりも安くてすむ。
  • 自然言語処理を使ってカスタマーサポートとの過去の会話を、FAQページの情報へと変換する。
  • 既に2000件の質問をFAQに返還しており、ユーザ企業のSEO向上にも寄与している。

 

Volans-i – B2B drone delivery

  • 生産を続けるのに必要なパーツの配送など、ビジネス客向けにドアツードアの高速配送サービスをドローンで行う。
  • 50lbs1000マイルまでの配送が可能。顧客あたり年間15000回の配送が可能。
  • Northrup Grummanの元社員などがチームにいる。ハイテク、航空、医療、オイル&ガス、自動車、製造などがターゲット市場。

 

Algoriz – AI that turns ideas into automated trading algorithms

  • トレーダーがアルゴリズムのアイデアをプログラマーの手を借りずに作成できる。英語でキーワードを与えることで、AIがコードに変換。
  • 3月にリリースしてから500人のプロフェッショナルトレーダーがサインアップした。とあるヘッジファンドからは2億ドルの契約書を受け取っている。

 

AlemHealth – Building a radiologist in a box using machine learning

  • 放射線診断を新興市場に提供。CTX線の機械は新興市場でも使われているが20%以下しか放射線治療医に使われていない。
  • ナイジェリアで展開。機械学習をCT装置に適用し、情報を集めてその情報を世界中の放射線治療医に送る。
  • 1スキャンあたり1ドル支払われている。

 

Voodoo Manufacturing – A robotic 3D printing factory

  • 製造業のAWSを目指す。3Dプリンターを集めたロボット工場を作っており、顧客はデジタルファイルを送れば、製品を受け取ることができる。
  • NikeMicrosoftVerizonIntelと既に働いており、この4半期で33万ドル(65%のマージン)を売り上げている。500億ドルのプラスチック射出成形市場を狙っている。

 

Wright Electric – Boeing for electric airplanes

  • 電気飛行機の開発。Southwest航空が低価格のサービスを提供できるのは燃料の事前購入があるからだが、電気飛行機にすればさらにそれが抑えられるという。
  • 300マイル以下の飛行の30%に狙いを定め、EasyJet航空と組んでサービスを開始する。
  • 技術が進んでいけば260億ドルの短距離飛行市場にも参入できる。

 

Speak – AI English tutor

  • 年間900億ドルを人間の英会話講師に払っているが、高いし効果的でもない。
  • 実世界のシナリオ(仕事の面接や道を訪ねるなど)に基づく会話をモバイルアプリで体験できる。スピーチ認識を使い、英語のアクセントを特定してどうすればよりクリアに発音できるかを伝える。まずはアクセントの強いスピーチデータを集めている。
  • 過去にアクセントリダクションのシステムを作ったチームで、AIによって翻訳自体は減るかもしれないが人のコミュニケーションは価値あるスキルとして残り続けるとふんでいる。

 

NanoNets – A machine learning API

  • 機械学習はビジネスを変えていくが、多くの会社はデータベースなどをスクラッチで作っていくことはできない。
  • 提供するAPIは、データをアップロードし、10分ほど解析の時間として待ち、数行のコードを書くだけで使える。自動のデータマイニングの機能を使うことができる。
  • 既に毎週百万のAPIコールを計測している。$99/月のサブスクリプションで10000回のAPIコールを利用できる。

 

Scribe – Automating sales development representatives

  • 売上につながりそうなリード案件とそうでないものの見極めは難しい。スマート入力フォームをホームページに設置することで、そのセールスリードの良し悪しを見極めてくれる。人を雇用するよりも50%安く、20%多くのリードを生み出すことができる。
  • 既に10000ドル/月の売上がローンチ3週間で上がっている。
  • 40億ドルのインバウンドセールス市場を狙う。また、その後はアウトバウンドセールスへも広げていく。

 

Bicycle AI – Automated AI customer support

  • AIを使ったフルスタックカスタマーサポート、24/7で質問に答えてくれる。
  • 60−80%の簡単なサポートをケース当たり3ドルで行い、80%のマージンを得ている。
  • 既に75000回の会話をベータ顧客5社向けに行い、30秒のレスポンスタイム、毎週20%の成長だった。

 

Vize Software – Self-serve Palantir

  • データビジュアライゼーションは難しいが、それを美しく簡単にできるソフトウェアを提供する。
  • 45万ドルの売上(年更新)を既に3ヶ月で上げており、KPMGやフランスの防衛省などが顧客。

 

IQBoxy – Software that replaces human bookkeepers

  • 簿記は570億ドルの市場だが、ヒューマンエラー、非効率などの問題がある。
  • 機械学習を使って物理又はデジタルのレシートやインボイスをスキャンし、口座に登録してくれる。人がかかわらずにエンドツーエンドの会計サービスを提供する。また、IQBoxy For Accountantsというプロダクトでは顧客にIQBoxyを使うことで会計士が忙しい業務から解放される。
  • 30%成長しており、120万のレシート、インボイスを処理した。

 

Pit.ai – Automatically mining trading strategies

  • AIを使ったヘッジファンド。トレードの戦略をAIが決めてくれるため、ヘッジファンドがトレーダを雇用するコストを削減できる。
  • ファンドがあげた利益の一部を利用料金として徴収し、ファンドが利益を上げることができなければPit.aiも利益をあげられない。

 

XIX.ai – Predictive assistant that anticipates your needs

  • ユーザが何をしたいかをいつでもアクティブに予測するアシスタントAIを開発している。
  • ユーザの行動に基づき、90%の確率で次にユーザが何をしたいかを予測する。これが99%になれば、ユーザはアプリをクリックする必要はなくなるのだという。
  • OpenAIGoogleリサーチ、UC Berkeleyなど著名なAI研究機関の出身者によって設立。

 

Tolemi – Software to help cities find distressed properties

  • 市政府のためのPalantirを自称。都市計画には人をやとって時間とお金をかけなければいけなかったが、それをソフトウェアで解決するデータハブを作っている。
  • まずは市の空き物件の分析から初めており、データから潜在的な問題を指摘する。都市計画、火災の危険性、空き物件などの分析が行える。
  • ローンチ後11ヶ月で130万ドルの契約と80万ドルの年間売上を得ており、54都市が使っている。チームは未だ4人で既に黒字化できている。

 

Niles – Conversational wiki for business

  • Google DocsSharePoint、スプレッドシートなどの中の情報を代わりに探してきてくれるSlackボット。TechCrunch内でも使われている。
  • GooglePalantirなどの社員が創業。
  • 270億ドルの市場を狙い、700チームが1週間のうちにサインアップしている。

 

Indigo Fair – Amazon for local retailers

  • AIを使った、小売店が店で販売する新しい製品を探せることができるプラットフォーム。小売店はA/Bテストをすることができ、売れなかった製品はタダで返却できる。
  • ローカルの小売りはアメリカでは巨大な市場だが、ショップオーナーはトレードショーに行くか、セールスパーソンから買わなければいけなかった。
  • Square CashSquare Capitalを作ったメンバーが創業。30の小売店がローンチ後8週間で使っており、45万ドルのLTVに相当する価値。6000ものメーカーが加盟している。

 

Tetra – Automatic notes for business meetings

  • 電話会議の議事録を音声認識から自動生成し、あとで検索が可能な会話形式に保存する。無料の自動音声認識と人間の編集者が編集する1分あたり50セントの有料プランを選択可能。
  • 会話の録音には倫理的なチャレンジが出てくるかもしれない。
  • 年間20億時間の電話会議という市場機会がある。Product Hunt1週間前にローンチし、有料会員が2組いる。

 

FloydHub – Heroku for deep learning

  • 創業者は2009年からディープラーニングに関わってきたが、ディープラーニングは取り組むのにハードルが高い。モデルのトレーニングとデプロイを簡単にする。
  • 3000のデータセットと1.5テラバイトのデータを扱うマーケットプレースも開発中とのこと。
  • トラクションは順調で2500以上のユーザと6000のウェイティングリストがローンチ後4週間である。UdacityAWSからFloydに切り替える予定。

 

MDAcne – Dermatology telemedicine app

  • アプリを使ったニキビ治療。コンピュータビジョンを使い、簡単かつ格安でニキビ治療を受けられるようにする。5億人がニキビになっているが、90%は費用が高いため皮膚科医にかからない。
  • セルフィーをとり、MDAcneが肌を分析し、その結果に合ったソリューションや製品をレコメンド。
  • 1ヶ月前にローンチし、50000人が既に登録。有料会員数は不明だが、利用は月額13ドル。

 

lvl5 – Maps for autonomous vehicles

  • 自動運転車を作るうえでの大きな障壁がLiDARなどの特殊なセンサーの不足であり、また、80000ドルから8000ドルと高額であること。ソフトウェアと安いカメラを使い、自動運転車の大量生産を可能にする。
  • 画像認識のソフトウェアを使って視覚的なランドマークを抽出し、3次元マップに登録する。これにより、自動車は自己位置推定がインチレベルの制度で可能になる(将来的にはLiDARと同精度)。
  • lvl5はソフトウェアは将来的にコモディティ化すると考えており、現在はソフトウェアの利用にチャージしていない。マップデータから収益を上げる予定。

 

参考資料

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