前回の記事(学歴もコネもない人がシリコンバレーでエンジニアとして職を得るには:心構えと便利なサービスまとめ)ではアメリカの大学に行っておらず、コネも無い場合のベイエリアでの職探しについて紹介した。無事企業からオファーをもらえたとして、次に立ちはだかるのが就労ビザの問題だ。高等移民の積極受け入れ策を掲げていたヒラリー・クリントン氏が大統領選で破れ、J-1H-1Bプログラムの縮小を示唆していたドナルド・トランプ氏が大統領になるので、残念ながら今後も状況の改善は見込みづらい。

基本的な考え方として、アメリカ人の仕事を奪う可能性のある人に対してビザは支給されない。そのため、アメリカ人にはない専門知識・スキルを持っているか、日本が関わる仕事のために日本人でなければいけないか、アメリカ人の雇用を生み出すか、もしくは一時的にトレーニングとしてアメリカに来るだけで仕事を奪うことはないか、のいずれかのケースでなくてはならない。

ビザの候補

移民弁護士のホームページには様々なビザの説明があるが、当てはまるものとしては

  • H-1B
  • L-1
  • J-1
  • O-1A
  • E-2
  • グリーンカード

などがあるだろう。筆者の周りで、日本からベイエリアに来ているエンジニアの大半は、まずH-1BビザかL-1ビザを取得し、その後は数年掛けてグリーンカードに切り替えていくというケースが多い。それぞれのビザの詳細は米国移民局のホームページや移民弁護士のホームページを確認してもらうのがよいが、概略を書いておく。

H-1Bビザ

エンジニアなど専門職向けの一般的なビザ(H1Bビザ、H1ビザと呼ばれることも)。他のビザは雇用主が変わると再度申請が必要になる(=転職が難しい)が、H-1Bは転職自由で企業側も慣れているので話を勧めやすい。取れるに越したことはないが、難点は後述の通り、特殊なケースを除いて年間の発給数が限られていること。4月までに応募しておかなければいけないので、タイミングが迫っている人は急ごう(昨年も4月7日時点で募集が終了しているため)。

L-1ビザ

アメリカの会社の日本支社、またはアメリカに支社のある日本企業の本社で1年以上働くと申請できる。ベイエリアに拠点を持つ多くの日本企業の駐在員やGoogleAppleなどの社員が利用している。専門職向けと管理職向けの2種類がある。会社が新しい場合は就労可能な期間が短く設定されているため、スタートアップでは利用しづらいということも。

J-1ビザ

アメリカの職業訓練を目的として作られたビザでInternshipTrainee2種類がある。前者は最長1年、後者は1年半。大学での研究の場合は3年。日本からインターンシップに来る学生や大学に派遣される研究者が多く利用している。J1認可団体(いわゆる留学支援のようなことを行っている会社)がビザをサポートし、企業や大学は「職業訓練の受入先」という位置付けになる。そのためJ1認可団体とのやり取りが別途必要。

O-1Aビザ

特定の分野で海外・国内で認められる成果を出している人が与えられるビザ。ノーベル賞受賞者やスポーツ選手、俳優が使うと言われているのでハードルが高く思われるが、筆者の周りでは経営者(スタートアップ含む)や研究者で利用している例もある。ニッチな分野でも構わないので、そこで目立った実績を残していればよい。

E-2ビザ

アメリカで登記した会社で、議決権の50%以上を日本側が保持し、一定額をアメリカに投資(オフィス、人の雇用など)している場合に申請できる。アメリカで起業したい方にはお勧めのビザだが、就職したい方には当てはまらない。

グリーンカード

これからアメリカに来るという場合は、アメリカ人と結婚するか、ランダムにグリーンカードが当たるダイバーシティビザプログラムに応募して抽選に通れば獲得できる。ダイバーシティビザの応募は1時間ほどで済む手間がかからないものなので、駄目元で毎年応募してみることだ。アメリカ人との結婚については冗談のように思えるかもしれないが、筆者の身の回りには必要に迫られて結婚したカップルが複数例存在する。中には恋愛関係が無いシェアハウスの同居人同士がグリーンカード取得のために結婚するという話もあるのだが、こういった詐欺行為を防ぐ目的で結婚後2年間は定期的に審査があるとのことだ。

最もメジャーなH-1Bと落とし穴

上記を鑑みると、アメリカで(自分が起業するわけではなく、どこかの会社で)エンジニアとして働きたい人の場合、実質的な候補はH-1B、L-1、J-1O-1Aが候補になる。

採用する企業側も扱いになれており、転職もできるH-1Bがお勧めだが、落とし穴は抽選制度だ。毎年65,000(+博士やアメリカの大学の修士以上などが対象のAdvanced Degree Exemption 20,000)の上限に対して、2016年は233,000通の応募があり、倍率は2.7倍だった。今やLottery(くじ引き)ビザだと揶揄されるほどになっている。ジョブオファーをもらった、H-1Bをスポンサーしてもらえることが決まったからといって、実際に働けるとは限らないのだ。

もう一つの問題は、H-1Bビザがくじ引きであるがゆえに、そもそもオファーを得にくくなっていることだ。企業からすれば、働けるかどうかわからない(37%の確率でしかビザの抽選を通らない)人に対してオファーを出すよりは、100%働けるアメリカ人にオファーを出すほうが確実だからだ。また、ビザのサポートは申請費用と弁護士費用がかかるほか、担当者(スタートアップの場合はCEOであることが多い)の時間をかなり使う。こうした不確実性+費用+手間を飲み込んでも日本人のあなたを採用したいかどうか(しかも実際に働く前なのであなたが仕事ができるかどうかはわからない)、という判断を企業は迫られることになり、理解のある企業(数多くの移民を受け入れているGoogleAppleなどの大企業)やCEO(自身も移民であるなど)でない限りはハードルが高くなってしまっている。

最後に、H-1Bビザを取得する場合、実質的に勤務を開始できるタイミングは毎年10月からに限定されるため、4月からおよそ半年間は仮にH-1Bビザの抽選に通ったとしても働けない(こっそりリモートで働いている例は存在するが・・・。)。18ヶ月ごとに資金調達のサイクルが回るスタートアップにおいて、半年間のうちに事業内容も採用計画も変更になることはザラであるから、やはりスタートアップの経営側としては志願者に特別な思い入れがない限りはオファーもビザサポートも行いづらいのだ。

なお、あまり知られていない良いニュースとしては、H-1Bの特例制度が存在することだろうか。マサチューセッツ州ではThe Global Entrepreneur in Residence (GEIR) Programというものがあり、マサチューセッツ州の大学に通ったあと州内で起業する場合にH-1Bビザのキャップを受けずに発給を受けられる特例制度がある。また、Unshackledというベンチャーキャピタルは同様に、移民のファウンダーやエンジニアへのビザ支給をキャップに関係なく行っているとのことだ。

なぜ時間があるなら学位留学がお勧めか

オファーをもらってもビザが確約されない(=志願者が働けるかはわからない)というところに外国人としての難しさがある。

既にグリーンカードやH-1Bビザを持っていればこうした話にはならないが、初めてアメリカで働くという場合にはハンデを克服する手段として、F-1ビザ(学生ビザ)のあとに獲得できるOPT(お試しビザのようなもの)を活用する方法がある。この期間のうちに成果を出し、会社に無くてはならない人材となることで、その後の就労ビザにつなげることができる。よって、後述の役に立つ記事で挙げているように、若くて時間があるのならアメリカの大学で学位留学をするというのがお勧めだ。アメリカの大学で修士を取っていれば、上記のH-1Bの抽選も優先枠(Advanced Degree Exemption)に入れるため、2回抽選のチャンスが得られるというおまけ付きだ。(それでも抽選に落ちてしまった例を見たことがあるが・・・)

移民弁護士は複数あたってみる

どのビザが適しているかは、個々人の学歴・職歴や米国での生活歴、歩みたいキャリアによって異なり、移民弁護士との相談が必要だ。但し、移民弁護士も過去に自分が手掛けたことのないビザについては勧めづらいこともあって、アドバイスが偏りがちなので、複数の弁護士に相談してみるのが良いだろう。

H-1BL-1が可能ならトライ、プランBとしてJ-1やO-1A

結論としては、一度取得すれば転職含めてその後のオプションを検討しやすいH-1Bビザがお勧め(もしくは企業が要件を満たせば志願者に対するハードルは低いL-1ビザ)だが、上記のように運任せな側面や応募時期が合わない場合もある。そこで、H1-Bが難しい場合のプランBとして、ビザ発給の上限が無く、開始時期も融通が利くJ-1O-1Aについても検討しておくのが良い。H-1BやE-2については既にネット上に情報が多くあるので、次章を参考にしてほしい。次回・次々回のブログでは、実際に筆者が取得したJ-1ビザO-1Aビザについて紹介する。H1-Bビザと比べるとあまり情報が無いので、多少参考になればと思う。

追記:友人から聞いた話だが、H-1Bのタイミングが合わない、O-1Aなどの申請の準備が間に合わないときの裏技としては、フルタイムのインターンを認めており、CPTを出してくれる学校に入学するという手もあるようだ。CPTが出る学校のリストはこちら

(参考)役に立つ記事

就労ビザはアメリカで働く・起業する人の多くが直面する問題であり、先人たちがとても役に立つ記事を残してくれている。これらに目を通してみるだけで理解が深まると思う。

参考資料

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