2012年にMake Schoolが今ではコーディングブートキャンプ(プログラミングスキル習得ための短期学校)という業態として呼ばれるようになったSummer Academyを始めてから5年、サンフランシスコでは30以上のブートキャンプが存在するようになり、筆者が住むハッカー向けのシェアハウスでもHack ReactorGeneral AssemblyApp Academyなど様々な学校に通う人たちが暮らしている(コーディングブートキャンプのリストはThe Complete List of Coding Bootcamps in San Francisco, Best Coding Bootcamps in San Francisco, programming boot camp in San Franciscoなどを参照)。やや遅れる形で日本でもLife is Tech!Tech AcademyTECH::CAMPなど多数の会社が事業を行うようになり、米国と同等の活況を呈している。

憧れの職業となった起業家・ソフトウェアエンジニアのステータスと高給を求めて、多くの人が門を叩いているが、その実態は外から分からないことも多い。

就職実績と誇大広告

プログラミングが流行りの習い事やビジネスマンの嗜みのようにもなりつつある日本では状況は異なるのかもしれないが、ベイエリアのように競争の激しい場所でコーディングブートキャンプの人気を決めるのは「就職実績」だ。就職実績とは、

  • GoogleFacebookなどの有名企業に就職させられているかどうか
  • 就職率が高いか

といったところで評価される。TechCrunchの寄稿記事「コーディングブートキャンプは事実の開示を誇大宣伝や詐欺まがいから決別するために」では、そもそも事実と異なる誇大広告の指摘があり、ブートキャンプ向けの実態調査を行う者まで出てきている(以下引用)。

多くのスクールが、100%近い卒業率と就職率を主張しているが、しかしその主張にはほとんど証拠がなく、スクールの経営実態も多くが開示されていない。

(中略)

スクールの多くが、ある一人の卒業生がY Combinatorに行ったとか、ほんの数名がGoogleに雇用されたとか、そんな一度限りの成果をマーケティングに利用している。それらはメールのそそるタイトルにはなるが、生徒に正しい期待を持たせることはできない。そして結局、企業が消費者の信用を築いていく必要があるまさにそのときに、信用は食い荒らされている。

今後一つの産業として育てていくために、こうした不誠実な運営は厳しく取り締まるべきだ。コーディングブートキャンプに対する州政府の規制も始まっている。

就職実績を上げるために行われていること

就職実績で定評のあるブートキャンプが行っているのはとてもシンプルで、

  • セレクション:スキル、ポテンシャルの高い人を入学させる
  • キックアウト(退学勧告)・ドロップアウト(自主退学):就職できない可能性の高い人を辞めさせる、もしくは、辞めるように仕向ける

の2点だ。サンフランシスコでは最も評価の高いHack Reactorのセレクションの厳しさは有名で、知人曰く入学できるのはWebやモバイルのスキルを既に高いレベルで身につけている若者や、Webやモバイル以外のプログラミング経験が豊富でウェブエンジニアに鞍替えしたいエンジニアなどだという。また、筆者のルームメイトが通うApp Academyというブートキャンプでは、成績下位10%が強制退学させられる仕組みになっている。なお、退学時に授業料の返還はあるそうなので、まだ良心的だろうか。

就職実績を上げていくためにコーディングブートキャンプを行う会社が本来注力すべきは、教育内容を改善し、期間中の参加者の能力向上を最大化することであるはずだ。悲しいかな、成長志向のスタートアップマインドと理想的な教育とのギャップがここにある。本質的な質の改善に取り組まない限り、産業としてもスタートアップの成功としても今後は厳しくなっていくだろう。

Make Schoolの例

当たり前だが、こうした内容はどのブートキャンプも表立って紹介はしないので、これから入学を検討している人は、入学前にスタッフに突っ込んだ質問をするか、在校生・卒業生の話を聞いてみるのが良いだろう。ブートキャンプではないが、Make SchoolProduct Collegeにとっても就職実績は重要だ。では、Product Collegeの第一期では実際にどのようなことが行われていたのだろうか。上の2点について見てみよう。また、次章に参考として第一期生の人数がどのように推移していったかを記録しておいた。

セレクション

これは半分成功・半分失敗といったところだろう。同期の学生の半分は企業での経験こそ乏しいものの、既に即戦力としての力を持っており、自分で受託のビジネスをしたこともあるようなスキルレベルがあって参加時のモチベーションも高かった。一方で、もう半分の学生は知能テストや面接をベースにポテンシャルを買われて選ばれたのだが、(もちろん友人として付き合うには面白い人が揃っているのだが)チームで働けない、自己管理ができない人が多く、結果的に努力が継続できない、成長できない人が多かった。今年9月から始まった第二期生のセレクションではこの点を大きく反省し、ポテンシャル採用枠に振り分けられた受験者は仮合格状態となり、Summer Academyへの参加が義務付けられ、そこでの成果や行動パターンなどを審査したうえでProduct Collegeへの入学可否が決定されるようになった。

キックアウト・ドロップアウト

まず、上記のようにセレクションに失敗した人については、自ら辞めていく人(=ドロップアウト)が多かった。辞めて学校に戻る、旅に出るものもいれば、実力はあるので有名企業で働いたりフリーランスの機会を得たりするものもいた。残念ながら数名は、在籍中の取り組み方などを理由にMake Schoolのスタッフから直接辞めるよう勧告(=キックアウト)された。第二期ではSummer Academyでふるいをかけているため、今のところキックアウトの事例は出ていないようだ。

自分の同期のなかで退学勧告を受ける仲間が出たことはとても無念だったし、Make Schoolとしても二度と同じ失敗をしないでほしい。Make Schoolは数カ月のブートキャンプとは異なるし、2年間の教育の場として大学を選ばない・選べない学生のための唯一に近い選択肢であるからこそ、本質的な部分の改善を進め、真の意味での「ハッカーとファウンダーのための学校」になってほしい。

(参考)第一期生の人数推移

期末在籍人数 ドロップアウト キックアウト 理由
合格発表時点 32
プログラム開始時点 31 1 開始直前に辞退
2015年9月末 30 1 授業ペースについていけない
2015年10月末 27 2 1 就職、ビザに関する問題、入学試験の不正発覚(→キックアウト)
2015年11月末 26 1 博士課程に進むために復学
2015年12月末 23 3 就職(×2)、PMに進路変更
2016年1月末 22 1 音信不通(→キックアウト)
2016年2月末 20 2 就職、起業
2016年3月末 18 2 就職、病気療養
2016年4月末 18
2016年5月末 17 1 授業態度などの問題(→キックアウト)

参考資料

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