Make School Product Academyの前半戦8ヶ月が先々週末で終わった。最終日にはSend-off partyなるものがあり、学生が一人ずつ表彰され、その学生に纏わるエピソードを皆で語り合った。ファウンダーのJeremyをはじめとして、多くの関係者からポジティブなコメントをもらった。半年前には文字通りゼロからのスタートだったことを考えると、(まだMake Schoolに閉じた話ではあるものの)こうして周囲の信頼を勝ち得つつあることは少しずつ前に進んでいる証拠なのだと思う。夏の過ごし方については、幸運にも幾つか魅力的なオファーをもらったため、まだ決めかねているところだ。多くのアイデア具現化を支援することができ世界的に知名度も高いイノベーションファームか、まだ創業者2人だが成功すれば間違いなく業界初のイノベーションとなり産業を変える可能性のある(そして失敗のリスクも多分にある)超アーリーステージのスタートアップか。落ち着いたらProduct Academy前半戦の感想とともに、またブログに書いてみたい。なお、2017年年明けの3rdセメスターからはOpenAIと提携した授業とプロジェクトが始まるらしく、今から楽しみだ。

前回書いたように、ここのところ自動運転に関わるスタートアップからの求人が後を絶たない。日本だと有名なZMPのほか、最近は大学発ベンチャーとしてSBドライブTier IVなどが出てきているが、ベイエリアでもCruise AutomationがGMに買収されたこともあり、Google、Tesla、Uberではない小規模のスタートアップによる自動運転技術の開発機運が高まっている。自動運転のコア技術は自動車よりも移動ロボットに近いため、シリコンバレーに分があり、実際、自動車会社に勤める友人に話を聞いてもソフトウェアエンジニアのリソース不足で困っているようだった。そんな中、筆者のところに引き合いがあったのは、乗用車ではなく商用車(トラック)の自動化に取り組むOttoStarskyだ。OttoはGoogleの自動運転車の開発メンバーが立ち上げに関わっていることで話題になっているスタートアップ、Starskyは未だステルスモードだが今夏のY Combinatorへの参加が決まったことで今後の注目が予想されるスタートアップだ。今回はこうしたスタートアップがトラックの自動運転に取り組む背景と、各社と話をするなかで耳にした両社の因縁について書いてみたい。

自動運転トラックの意義:コスト削減、事故低減、運転手不足回避

そもそもトラックの自動運転の意義とはなんだろうか。こちらの記事で、ウェブベースのアプリで配送状況をリアルタイムに確認可能なツールの開発とフォワーダーサービスを提供するFlexportのCEOが解説してくれているが、大別すると下記の通りだ。

  • 人件費の削減:トラック1台分の積み荷をロサンゼルスからニューヨークまで輸送するのは4,500ドルかかり、その75%が人件費
  • 稼働時間の向上:人間のドライバーは8時間の休憩を取ることなしに1日あたり11時間以上運転してはならない
  • 燃費効率の向上:走行距離に応じて報酬が支払われるため最も効率的な時速72kmよりも速いスピードで運転している
  • 事故の低減:米国では年間835人がトラック運転中に死亡しており、それは過去45年間の国内線の航空事故による死亡者よりも多い
  • 運転手不足の回避:若者が就きたがらない仕事で、平均年齢は55歳。アメリカトラック連盟の発表では、2015年時点で5万人のドライバーが不足
  • 公害の軽減:トラックの数は車両の1%にすぎないが、道路公害の原因の28%を占めている

これらはトラックの自動化技術を用いれば解決可能だ。乗用車の自動運転の意義は事故の低減に加えて、運転に費やす労を減らして自由な時間を増やす、といった価値換算しにくい議論がなされることがあるが、トラックの自動運転については劇的なコスト削減に繋がるため、乗用車よりも普及していくのは早くなるのではないだろうか。

農業機械の歴史から見る技術的失業のインパクトと規制議論の着地点

反対派の意見としてよく挙げられるのは、AIやロボットに人間の仕事を奪われてしまうという懸念だろう。米国には160万人のトラック運転手が存在し、それは労働人口の1%にあたる。飲食店、休憩施設などトラック運転手向けのビジネスへの影響も考えると、彼らが職を失うことは米国経済に少なからず影響を及ぼすというわけだ。技術の進化と失業は表裏一体で、経済学的には生産性の向上と需要増加のペースが同調しなければ技術的失業(新しい技術の導入がもたらす失業)は発生する。

歴史を紐解いてみれば、産業革命の影響を受けて蒸気機関を使った農業機械が開発されたのは1849年、コンバイン(刈り取り+脱穀を結合)が登場したのは1885年、内燃機関を搭載したトラクターが作られたのは1889年と農業の機械化は1800年代に始まっている。1800年当時は農業従事者は(先進国で)75%だったというが、機械化が進み、20世紀後半には5%未満にまで低下した。(要因は生産効率向上だけではなく、また、先進国と途上国の生産量の比率の推移のデータなどが手に入らなかったのであくまで目安にしかならないのだが、、、もし要望があれば時間を使ってデータを集めて分析してみたい)世界の人口は1800年に10億人だったところから2000年には60億人になったので単純計算で需要が6倍になったことに対して、(上記比率をそのまま掛け算してしまうと)農業従事者は7.5億人から3億人まで半減していることになる。つまり、農業機械の導入によって需要増加のペース以上に効率化が進み、半数の人が職を失ったことになる。これをどう捉えるかは議論があると思うが、生き残った半数の人にとっては労多くして功少なしだった仕事を、大規模農家の事業者になることで収入増に繋げられたという側面もあるのではないか。

翻ってトラック輸送について考えてみる。一般に貨物輸送量の成長率はGDPの成長率と相関があると言われており、1800年代以降の急激な人口増加に相当する強いドライバーは存在しない。しかしながら、Eコマースの浸透、Industrie 4.0の実現などにより物の移動が増加する可能性はあり、物流コストの大幅な低下が現実のものとなれば一極集中生産と格安物流網の組み合わせによるサプライチェーンの組み換えというのは起こり得る話だと思う。そして何より、業界としてドライバー不足が深刻になれば現状の貨物輸送を維持していくことも難しいだろうから、現実解としては引退するドライバー分は自動運転トラックによる効率化で補っていく、というのが着地点になるのではないだろうか。それに向けて自動運転トラックに関わる法規制も整備されるはずだ。

しのぎを削る大企業とスタートアップ:Daimler、Peloton、Otto

自動運転トラックの実現により、農業分野で農場経営者が出現したのと同様にドライバーの仕事も「トランスポートマネージャー」へと変わっていく。そんな将来像を示しているのがトラック製造大手のDaimlerだ。Daimlerは競合に先駆けて自動運転技術の開発に取り組み、自動運転時代のトラックの新しい姿を示している。運転席は事務作業が可能なスペースになっており、タブレット型PCを使って受発注先とのやり取りを運転中に行うことができる。最近の発表では2020年までにトラック部門のデジタル分野に総額5億ユーロを投じると報じており、2025年までに自動運転トラックを実用化する計画だ。隊列走行(最近はプラトゥーン技術と呼ぶようだ)による燃費改善や、トラックに搭載した400個のセンサーと車車間、車・インフラ間通信によって物流情報を積極的に集め、新分野の事業拡大を狙っている。

隊列走行の分野はDaimlerに限らず、日欧米のそれぞれで技術開発が行われている。欧州では2016年4月にDaimlerやVolvoなどのメーカーによる実証実験が行われ、ドイツやスウェーデンの向上からオランダのロッテルダムまでの隊列走行に成功した。日本でもいすゞと日野が共同開発で合意したり、国交省と経産省が2019年度に向けた実証実験の計画を発表したりと同様の取り組みが行われている。米国ではDaimler参加のFreightlinerのほかはスタートアップのPeloton社が有名であり、Volvoやデンソー、UPSなどが出資している。デンソーは自動運転時代に向けて通信インフラの分野にも積極的に開発投資を行うなど、Tier1メーカーとして次世代自動車でコアとなる技術を見極めて投資しているので興味深い。

Peleton以上に今話題をさらっているのが冒頭に述べたOtto社だ。同社はGoogle Xで自動運転車の開発に関わっていたAnthony Levandowski氏らが率いるスタートアップで、設立から半年で既に40名の社員を揃えており、5月中旬にこれまでのステルスモードを一部解除して自動走行のデモビデオを公開した。OttoはDaimlerの開発するような高価な自動運転トラックが市場に普及していくのは当分先だと考えており、既存のトラックに後付け可能なADASモジュールのようなものを開発しているそうだ。これにより、ドライバーが高速道路の走行中に少し休憩を取ったり作業したりすることを可能にするという。Anthony氏のほかにも、Tesla、HERE、Apple、Cruise Automationなど名だたる自動車関連企業から短期間で数多くのエンジニアを集めており、既に公共高速道路でのデモを行っていることから注目を集めている。

注目のOttoと今夏YC参加のStarskyとのシリコンバレーらしい因縁

最後に本論とは関係ないのだが、現地のエンジニアたちから耳にした、いかにもシリコンバレーというOttoとStarsky Roboticsの因縁話を紹介しておく。Starsky Roboticsはステルスモードのスタートアップで”Robots to Automate Vehicles“を開発している。Starskyが狙うのはOttoと同じ自動運転トラックの分野で、詳しくは書けないがファウンダーは既存のトラック業界の課題に精通しており、ロボット技術によりその解決を目指している。面白いのは、元々自動運転トラックに目をつけたのはStarskyのファウンダーで、彼が知人のトラック運転手などから業界の根深い問題について聞き、当時のルームメイトと解決すべく会社設立の準備を進めていたそうだ。このルームメイトこそが後にOttoのファウンダーとなる人物で、ある日突然シェアルームから姿を消したかと思うと、いつの間にかOttoを設立し、メディアで注目される存在になっていたという。残されたStarskyのファウンダーは共同創業者とビジネスプランを失ったほか、2人分の家賃の支払いを求められることになった。幸い現在では別の共同創業者が見つかり、2016年夏のY Combinatorに採択され、リベンジに燃えているという。それ以来、彼は誰と話をするときもNDAを交わすことを欠かさなくなったそうだ。当人にとっては笑えない話だが、いかにもシリコンバレーらしい話だった。

参考資料

 

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