先々週頃からインターンシップ期間に向けた選考のファイナルステージが続いていたが、まずは一社から内定をもらうことができた。Y Combinator卒業生専用のサイト(bookface)に自分のプロフィールをポストしてもらってからは一日に一件のペースでファウンダーから直接連絡が来ている。あまり興味が無くても力試しとネットワーキングのためには良い機会なので、しばらくは就職活動を続けてみるつもりだ。

日本では聞いたことのないロボットのスタートアップとも話をしているので、そのあたりも落ち着いたら纏めてみたい。自動運転のスタートアップ、移動ロボットや3次元スキャナを生かしたスタートアップが多い印象だ。週末は知人の紹介で医療ロボットのスタートアップに勤めるエンジニアと話をする機会があった。準備のために調べた内容と併せて備忘録として纏めておく。

手術ロボットの医療機器・医療ロボットにおける位置付け

日本国内では医療機器産業の競争力強化に関する議論が盛んだ。医療機器メーカーの上位20社に入る日本企業は僅かに一社と他の産業に比べると心もとないが、要素技術は高い水準にあるため今後の成長が期待されている。米国では歴史的にスタンフォード大学が中心となってバイオデザインという新たな医療機器のイノベーションに関するプログラムが展開されており、日本でもその移植プログラムとしてジャパン・バイオデザインというプログラムが開始されている。

医療機器の一技術分野としてロボットが位置付けられ、現在の活用事例としては医療行為、看護業務、事務の3つの領域でそれぞれ取り組みが見られる。看護業務のサポート事例としてはエクソスケルトン(パワースーツ)型の介護支援ロボットが試験段階にあり、事務のサポート事例としては米国のAethon社が手掛ける院内自律搬送ロボットTUG(日本でもパナソニックが同様のHOSPiというロボットを試験展開)が僅かだが導入されつつある。

現状、医療ロボットとして事業が成立しているのは一つ目に挙げた医療行為のサポートの領域だ。有名なのはIntuitive Surgical社が手掛ける手術ロボットのda Vinciだろう。患者負担が少ない低侵襲の術式である鏡視下手術にロボット機能を付加し、従来不可能とされていた角度からの視野の確保と、鉗子の自在で細密な動きが可能になったほか、患者の身体に直接触れず、遠隔で操作することが可能なため、座ったままの手術が可能等、術者への負担も軽減、術後の出血量や疼痛が少ない、傷口が小さく回復が早いといったメリットが存在する。日本でも2012年4月から健康保険対象となり普及が見込まれる。

手術ロボットの父、7社目のAurisに挑戦中

Intuitive Surgicalを設立したのは、「手術ロボットの父」とも言われるDr. Frederic Moll氏だ。Moll氏は医療機器に関わるシリアルアントレプレナーとして、これまでに公開されているだけでもIntuitive Surigical社、Hansen Medical社、Endotherapeutics社、Origin Medsystems社、Restoration Robotics社、MAKO Surgical社、Auris Surgical Robotics社など7社以上の創業に関わっている(※2016年6月6日追記:知人曰く、これまで20社以上の創業に携わっているとのこと)。

  • Endotherapeutics
    • Moll氏の発明した腹腔鏡手術用の安全な套管針(トロカール)を開発
    • 1992年にUnited States Surgicalに買収
  • Origin Medsystems
    • 腹腔鏡手術用の医療機器を開発
    • 1992年にEli Lillyに買収、1999年に心臓血管手術など向けに医療機器を手掛けるGuidant傘下に
  • Intuitive Surgical
    •  1995年設立、NASDAQ上場
    • 鏡視下手術用ロボットのda Vinciを開発
  • Hansen Medical
    • 2002年設立、NASDAQ上場
    • 血管用(カテーテル操作)ロボットを開発
  • Restoration Robotics
    • 2002年設立、現在Series C
    • 植毛用ロボットのARTASを開発
  • MAKO Surgical
    • 2004年設立、2008年に株式公開、2013年にStryker Corporationに買収
    • 整形外科用の手術ロボットを開発
  • Auris Surgical Robotics
    • 2007年設立
    • 眼科手術用ロボットを開発→高精度で楽に気管・肺、胃腸など向けの腔内手術ができるロボットを開発

現在Moll氏が注力するのは上記7番目のAurisで、2007年にマサチューセッツ州で設立された、スタートアップにしては歴史のある会社だ。2013年10月に歯科用レーザーの技術を持つBiolaseとのパートナーシップを発表し、白内障の除去手術用のロボット手術システムを開発している。もうすぐ設立10週年になるが、依然としてステルスモードのまま目立った情報は開示されておらず、2013年の提携発表時点ではAurisも眼科手術向けのマイクロ手術システムに注力しているという話だった。

※2016年6月7日追記:FDAの認可に伴い、Aurisの取り組みが一部明らかに。より高精度で楽に気管・肺、胃腸など向けの腔内手術ができるより汎用なロボット(開発名:ARES [Auris Robotic Endoscopy System] robot)を開発中とのこと。詳細はこちら
※2017年3月19日追記:筆者友人の研究者によれば、下記図にもあるようにシングルポートでの手術が可能になる点が大きな訴求ポイントになりそうだとのことで、将来的には脳手術などでも使われる可能性がありそうだ。

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Image: Auris Surgical/U.S. Patent and Trademark Office

2014年3月にシリーズAでMithril Capital Management, Lux Capital, NaviMed Capital and Highland Capital Partnersなどから34Millionドルを調達したのち、2015年9月には新たに150Millionドルの巨額調達を行っている。その後、先月(2016年4月)には自らが創業して既にNASDAQ上場企業でもあったHansen Medicalを80Millionドルで買収することを発表している。現時点で戦略意図は明らかではないが、Hansenを手に入れることで技術還流と様々な術領域に適用可能な手術ロボットのデパート化が狙いに含まれるだろう。

技術は外部調達、術師のニーズ把握で差別化

一般的なロボット会社の創業者と異なり、Moll氏は非エンジニアで技術を持っていない。Moll氏はワシントン大学でメディカルドクターの博士号を取得する以前はUCバークレーで経済学の学士号を、スタンフォードで経営学の修士号を取得しており、ビジネス感覚の強い人物であると想像できる。知人曰く、元々医師であることから、術師のニーズを知り尽くしており、過去に創業した会社のいずれも技術開発ではなくニーズ充足に注力してきたとのことだ。実際、Intuitive Surgicalの創業においても技術自体は現在John Hopkins大学で教授を務めるRussell H. Taylor氏がIBM在籍中に取得した特許のライセンス供与を受けていた。da Vinciの開発においても現在のAurisでの活動にしても、考え方はロボットを作って問題解決にあたるというよりは、医療機器の会社が手段の一つとしてロボットを開発している、というイメージに近いらしい。

初期の開発パートナーやマーケティングパートナーとして所謂KOL(Key Opinion Leader)となる医師のリストが存在し、定期的にディナーパーティを開くなどして製品開発へのフィードバックと市場の開拓を行っている。アメリカでは医師のほうから積極的にロボットのトライアルに来てくれることが多く、日本と比べるとロボット手術に対する受容性は高いようだ。そもそも上記KOLのリストの中に日本人の名前は殆ど無いらしいのでそれも手術ロボットの利用が遅れている一因なのかもしれないが・・・。

まだ途上、だからこそ急ぐべき手術ロボットとキーモジュールの開発

手術ロボットの歴史は1940年代に術中のゴミを扱う遠隔マニピュレータの開発にまで遡ることができるが、現状はまだ発展途上で普及したとは言いがたい。ロボット導入によるコストがとりわけ中小規模の病院にでも見合うものになるのか、合併症によるリスクが従来の手術よりも大きいのではないか、といった議論が存在することも事実だ。しかしながらロボットの活用によるメリットは確実に存在し、アカデミアでも手術ロボットの適用領域が広げるべく研究が進められている。イリノイ州のLoyola University Chicago Stritch School of Medicineでは前立腺がんの手術にロボットを用い、出血量と入院日数の低減を実現した。

Moll氏とda Vinciの実績は、確実にあとに続く企業に対する道標となっており、名乗りを上げようとする企業はAurisだけではない。ノースカロライナ州のリサーチ・トライアングル・パークに居を構えるTransEnterix社は手術ロボットの研究開発を行い、50Millionドルの資金調達を行った。そして2015年には伊SOFAR社のロボット手術部門の買収を発表している。

知人曰く、積極的に外部技術を導入しているなかで、特に画像関連の技術では日本企業との連携の事例もあるようだ。首相官邸の資料では将来の国産医療ロボット開発の有望領域として「日本が得意とする軟性内視鏡とロボティックスの融合により、医師が手術野(患部)を俯瞰しながら直観的に操作可能な新しい軟性内視鏡手術ロボット」が挙げられている。画像分野は近年Alphabet傘下の企業をはじめとしてベイエリアのスタートアップが得意とする領域でもあり、日本のロボット会社は明らかに後塵を拝している(唯一、ファナックとPFNが検討しているくらいだろう)。ロボットの制御の作り込みのノウハウがAI技術の発展により陳腐化する前に、早期の手術ロボットの国産製品化、並びに、海外企業との連携によるキーモジュールとしての地位確立を図らねばならないだろう。

Verb surgicalが狙う手術ロボットの先

2017年4月1日追記:Intuitive Surgicalの手術ロボットの先の未来として「デジタル手術」、「手術の民主化」を掲げているのがVerily(元Google Life Science)とEthicon(ジョンソン・アンド・ジョンソン傘下の医療機器会社)のもとで設立されたVerb Surgicalだ。手術ロボットに、機械学習を取り入れたデータ解析や状況の可視化の機能などを盛り込むことで、(ロボット本来の強みである操作の正確性に加え)医師の認知・判断を支援する目論見だ。可視化の機能については、Googleが得意としているような画像へのアノテーションを使い、医師に体内の情報をより分かりやすく提示する。また、他の医師が手掛けた過去の手術に関する情報を活用することで、経験の浅い医師でも高いレベルでロボット操作が行えるようにしていく計画である。ハードウェアについても、既存の手術ロボットは大型・高額であるため、より小型で、なおかつモジュラー型にして組み換えができるコンセプトで開発を進めている。

参考資料

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