スプリングブレークを経て、いよいよ4月なった。月末にDemo Nightを控えているため各チームの動きが活発になってきた。筆者のチームはというと、災害時や途上国など劣悪な通信環境においてテキストや音声の通信、更にはメッシュネットワークを構築することによるインターネットのアクセスを可能にするハードウェアを開発している。プロジェクトのニーズ調査段階でサンフランシスコ市のITチームとの会合があり、災害に備えるため早急に開発してほしいと依頼されている。来週はテキサスでの産業向けROSのトレーニング、再来週はシンガポールでのTech In Asiaと移動が多く、益々忙しくなりそうだ。なお、今夏8週間で行われるSummer Academyの締め切りも4月末に迫っているようだ。筆者の推薦があれば少なくとも面接までは進めるらしいので、興味のある方は連絡してほしい。

今週は昨年オムロンに買収されたAdept Technology社について書いてみたい。主なソースはSilicon Valley Roboticsによるインタビューや、Adeptの元アジア社長である大永氏との対話だ。

Adept Technologyとは

Adept社は米国拠点の産業用ロボットメーカーで、ビジョンセンサー技術を強みにパラレルロボットやスカラロボット、多関節ロボットなどを提供している。画像処理とダイレクトドライブ方式の組み合わせにより、高速・高精度の制御を実現してきた。

2015年9月にはオムロンが買収を発表したことは記憶に新しく、また、今月からオムロンの販売網を使ったAdept社の産業ロボット拡販もしていく発表も話題になっている。オムロンは2015年7月にもモーション制御機器を手掛けるDelta Tau社を買収しており、主力のFA事業をセンサーやPLCのビジネスからロボットを組み合わせたソリューションビジネスへ遷移させようとしている。

オムロンが欲しかったモバイルロボット技術

上記のように、オムロンとAdeptはFA分野で教科書的な相乗効果が見込めるから、工場向けロボットの獲得に目が行きがちなのだが、最近の展示会や米国でのメディア露出の様子からは、オムロンは寧ろAdeptが持つモバイルロボット技術の将来性を高く評価していたことが伺える。Adept社は2010年にMobileRobots社を買収しており、成長しつつあったモバイルロボット市場への参入を行った。MobileRobot社が持っていたのはLynx Autonomous Intelligent Vehicle (AIV)と呼ばれるハードウェアプラットフォームで、積載物に合わせて様々なロボットを構築できるというものであり、既に工場やウェアハウスなどで用いられている。

ハードウェアプラットフォームとしての汎用性の高さに加え、競合他社との違いを決定付ける技術基盤として、

  • 複数ロボット間での地図情報の共有
    • 建物の中でモバイルロボットを使用する際、移動の手がかりとなる地図情報が重要であるが、Adeptでは1台のロボットが得た情報を即座にネットワーク上に共有し、各ロボットの情報をアップデートすることができる。
  • LIDARが使えない環境での位置推定技術
    • LIDARの精度が悪くSLAMが使えない環境向けに、Acuityと呼ばれるカメラを使った三角測量に基づく位置推定が行える。
  • 複数ロボットのマネジメントシステム
    • The Lynx Enterprise Managerでは複数のロボットのタスクを管理する、いわばフリートマネジメントのような機能を備えている。

を持っている。Adeptが得意とする画像処理技術に加え、過去様々なパートナー企業との協業によって積み重ねてきたノウハウをソフトウェアで提供している。

Adeptが見据える次の市場:サービスロボット

現時点でモバイルロボットの主な販売先は、工場やウェアハウスなど、24時間稼働が求められ、特に半導体工場など「Time is money」であるような領域が中心だが、今後の成長領域として「ホスピタリティ」、並びに、「ヘルスケア」の領域を掲げ、積極的な製品開発とマーケティングを行っている(リンク先のビデオ参照)。Fetch RoboticsやSaviokeのように移動ロボットの適用先を「業界切り」で必ずしも選んでいるのではなく、顧客の価値起点で発想し、また、自社の強み・弱みを良く理解したうえでパートナリングを巧みに活用しているように見える。

例えばホスピタリティの領域としてホテルや飲食店向けのTechiというロボットを展開しているのだが、注力している市場はシンガポールとのことだ。シンガポールでは人件費が高騰しているため、サービスロボットによる置き換えのニーズが高いというわけだ(なお、カリフォルニアでも2022年には最低賃金が15ドルまで上昇するため、今後の従業員置き換えニーズは出てくるように思う)。

また、もうひとつの注力領域として病院内の搬送用途を狙っているのだが、これは病院のように従業員の専門性が高い一方でその時間が雑務にも割かれてしまっている状況に対して、1人当たりが専門性の高さを生かして働ける時間を伸ばすことになる。更に、Adeptの得意分野である産業用途とは異なる業界知見が必要となることを見越して、SwisslogやLamson Groupといった企業との協業によりソリューションを作り上げているようだ。

サービスロボットの本命はWillow Garage出身のSaviokeやFetch Roboticsでも、ソフトバンクのPepperでもなく、良い買い物をしたオムロンなのかもしれない。

参考資料

広告