今週はLinkedInのサンフランシスコオフィス訪問、Craig Newmark氏の講演、サンフランシスコエンジニア飲み会、GREEのサンフランシスコオフィス訪問、Sillicon Valley RoboticsのSpace Roboticsに関する講演と課外活動の予定が多かった。そして金曜日の夜から24時間は、バークレーで開催されたAT&T主催のスマートシティ向けモバイルアプリ開発ハッカソンに参加してきた。WebRTCと顔認識を用いた居眠り運転防止アプリを開発し、こちらに来てから初めてコンテストで受賞・賞金獲得をすることができた。

居眠り運転の被害とリスク

居眠り運転(広義には、疲労も含む危険運転)は自動車業界の古くて新しい問題の一つで、日本では2012年4月の関越自動車道高速バス居眠り運転事故以来、OEMやTier1、アフターマーケットの各プレイヤや研究機関からの提案が活発化しており、国土交通省も補助金を出している。アメリカの事情はというと、AAA Foundation for Traffic Safetyの直近の発表によれば、アメリカでは居眠り運転を原因とする事故が年間32.8万件発生しており、そのうち6,400件が致命傷を負うものであるとのこと。また、DrowsyDriving.orgを運営するNational Sleep Foundationが2005年に行った調査によれば、60%(1.7億人)のドライバーが運転中に眠気を感じており、37%(1億人)が実際運転中に居眠りをしてしまったことがあるという。先月半ばに発行されたthe Journal of Clinical Sleep Medicineの中でAmerican Academy of Sleep Medicine (AASM)は、睡眠不足による運転がドラッグやアルコール摂取状態の運転と同等かそれ以上の注意力や判断力の低下をもたらす(18時間起きていることはBAC [blood alcohol concentration] 0.08%に相当)として警告している。運転支援技術が発達すればするほどドライバーはシステムに対して過信状態に陥って注意力低下は起こりやすくなるため、完全自動運転が実現する時代までは居眠り運転防止に取り組み続けなければならない。

居眠り運転防止の技術開発動向

居眠り運転防止は(1) 居眠り状態の検知と(2) 注意喚起の2ステップで構成される。今回のHackathonでは、居眠り運転を(1) 顔認識によって検知し、(2) 電話によって注意喚起を行うアプリを開発した。以下では新たなセンサ開発やデータ解析で近年発達が目覚ましい(1) 居眠り状態の検知について見ていきたい。なお、(2)の注意喚起については振動、光、音、室温、匂いなどを使い、いかに五感に働きかけることでドライバーを覚醒させるられるかがテーマとなっている。

居眠り状態の検知に関する技術開発のトレンドは、車両情報の変化の検知から生体情報の変化の検知へ向かっている。ドライバーに負担を与えず、一方で、誤検出のためにシステム不信を起こすことがない程度の性能を保つ必要があり、また、車載機器であるからコストの成約も厳しいため、意外と複雑で決定打が見いだされていない研究分野だ。そんな中で、真っ先に実用化されたのは車速・加速度・操舵といった車両情報を用いるシステムである。新たなセンサの設置が不要であるため既にDaimlerやBoschが実用化済であるが、ノイズの多さや検知のタイミングが事後的であるといった課題が存在するため、生体情報の活用へと進んできた。

生体情報を用いるものの中では、非接触であることの簡便さや画像認識技術の向上から、顔・目の状態変化を用いる手法で実用化が始まっている。トップランナーとして注目されるのはオーストラリアのSeeing Machines社。同社はオーストラリア国立大学(ANU)からのスピンアウトとして1999年に設立され、自動車のみならず鉱山機械や航空機、鉄道などの分野向けに赤外線カメラと画像認識技術を用いたセンサ、警告装置、監視サービス、分析サービスをソリューション提供してきた。建機業界のリーディングプレイヤであるCaterpillarや日本のタカタとパートナーシップを結んでいる。鉱山での24時間の使用に耐えうることから、夜間対応含めて画像認識の性能は十分基準を満たすものなのだろう。同様に赤外線カメラ+画像認識の手法は日本ではデンソーやアイシンが取り組んでおり、今後は高級車から順次採用されていくだろう。課題は過去と比べれば安くなったとはいえ、数万円以上かかるというコストだろうか。

生体情報関連では、心拍や体温、脳波を用いた居眠り状態検知の研究も行われている。車両情報や顔・目の状態変化より早期にサインとして現れる生体情報の変化を捉えることで、居眠り運転に陥ることを未然に防ぐというアプローチだ。但し、提案されているもののほとんどは何かしらの装置をドライバが身に付ける必要があることがハードルだ。接触式システムの簡便化、非接触式のシステム開発、ハンドル・座席といった現在も既に接触している機器の活用などをしない限り普及は見込めないだろう。簡便な接触式システムの中では、ロシア科学アカデミーの心理学研究所が設計するStopSleepが成功事例だ。人差し指と中指に装置をはめることで皮膚電位と周波数を分析し集中力低下の検知・注意喚起を行うことができる。ロシア国外でも導入されており、ログのダウンロードを可能にすることで事業者は労務管理にもデータを活用することができる。

ライドシェアリングエコノミーは居眠り運転による事故リスクを増加させる

前置きが長くなったが、拡大を続けるライドシェアリングエコノミーのリスクとして懸念されているのが交通事故だ。UberLyftともにサービスを利用するドライバーが致命的な事故を起こしており、事故の責任所在が問題になっている。両社を比べるとLyftの方が対応は一歩進んでいるといった印象で、ドライバー登録の際、年齢制限・車両制限に加えて、電話での面接を加えることによってリスク低減に務めている。

ライドシェアリングエコノミーの拡大による影響として、上述のような交通事故の責任問題や、自動車の所有者・運転者の減少問題が自動車業界にとってのリスクとして盛んに議論されている。一方で、自動車を所有し運転する人の「一人あたり運転時間」が増加し、居眠り運転などによる交通事故リスクが増加する可能性についてはあまり指摘されていない。ライドシェアリングでは日本のタクシーのような研修を受けたドライバーとは異なる素人ドライバーが、自分の空き時間や通勤時間に余分な運転をするというものであるから、素人×長時間運転or疲労時の運転になるということで、居眠り運転のリスクが増えることは想像に難くないだろう。ひとたびUberのドライバーが居眠り運転で致命的な事故を起こせば、大きな議論になっていくと思われる。

赤外線カメラのスマホ搭載が突破口となるか

UberやLyftの素人ドライバーがこれまで紹介してきた居眠り運転防止技術を享受できるかというと、必ずしもそうではない。彼らは中流階級の人が多く、車も大衆車か、高級車でも年季が入っていることがほとんどであるため、当然のことながら最近の高級車が搭載しているような安全装置とは無縁だ。前述のAAA Foundationの調査によれば、居眠り運転の事故が最も多いのは16−24歳の若いドライバーであるから、彼らを救うためのソリューションを考えなくてはならない。

既存のソリューションのうち、赤外線カメラ+画像認識がコスト高になる理由は光学レンズの材料やイメージセンサーのパッケージングに依るものである。但し、赤外線カメラメーカーはスマートフォンへの提案とその際のコスト低減可能性についてアピールしており、今後、アプリベースでの居眠り運転防止ソリューションや既存ソリューションの低価格化の可能性は十分考えられるだろう。また、判断アルゴリズムを(あらゆるドライバーに対応可能な汎用モデルにするのではなく)ドライバーごとにカスタマイズすることで、開発費の低減やイメージセンサー部分の低価格化を実現することも、装置のスマホ連携と機械学習を用いれば実現可能だと思われる。Make Schoolでは現在iOSアプリケーションの開発を行っているため、アプリベースの簡便なシステムでどのようなソリューションの可能性があるか、引き続き検討してみたい。

参考資料

 

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