今週木曜日はThanksgiving Dayがあり、夕方からMake Schoolに皆で集まり、Potluckやゲームを楽しんだ。Thanksgivingと言えばターキーだが、サンフランシスコにはベジタリアンが多いせいか、豆腐からできたトーフキーなるものまで存在する。また、ゲームといえばテレビゲームは通称Smash!こと大乱闘スマッシュブラザーズが大人気でHackathonの深夜にはトーナメントが組まれるほどだが、カードやボードゲームも戦略性の高いものが多いせいか人気が高い(流行りのゲームについては文化の違いを非常に感じるところであるのでまたいずれ紹介したい)。

Thanksgiving前は学校が落ち着いていたため、パロアルトで開催されたSVJENスタートアップセミナーにも参加し、シリコンバレーで過去27年間ものづくりに携わってこられた遠藤吉紀氏の話を伺ってきた。隆盛を極めては衰退していった家電や通信のごとく、今後日本の自動車もTesla、Google、Appleや新興国メーカーのEV&自動運転に食われる恐れが否めない。そんな話を伺っていて、先日のFossilによるMisFit Wearables買収のプレスリリースを思い出し、日本のハードウェアが共通してビジネスモデル転換の変局点を見極められていないように感じていた。今日はその考察について話したい。

MisFit:デザイン性の高いヘルストラッカーのプラットフォーマー

日本でも取り扱いがあるためご存じの方もいると思うが、MisFit Wearablesは2011年創業のフィットネストラッカー並びにスリープトラッカーを開発するスタートアップだ。シリーズCではXiaomiから出資を受けたため注目を浴びたこともある。CEOのSonny Vu氏はiPhone連動型ヘルスケアデバイスを世界で初めて開発したAgaMatrixのファウンダーでもある。腕時計型のスタイリッシュな活動量計SHINEや、マットレスに設置して最適なタイミングで目覚めを促すBEDDITなど複数の製品を展開し、各機器で収集されたデータはスマートフォンに転送され、閲覧・解析することができる。また、自社デバイスの開発のみならず、Apple Watch向けにアプリ開発も行っている。

Fossilの真の狙い:生体情報収集範囲の拡大による総合プラットフォーマーへの脱皮・ビジネスモデル転換

今やIoTスタートアップを代表するMisFitだが11月下旬、ビンテージ調のデザインが特徴の時計や鞄、宝飾品を扱う米国ダラスの企業”Fossil”に買収された。上記プレスリリースやTechcrunchの記事によれば、今回の買収の狙いは

  • ウェアラブル機器向けのバッテリー並びにITプラットフォームの獲得
  • Fossilの既存チャネルを生かした拡販
  • Fossilのスマートデバイス・アクセサリーのロードマップ目標達成スピードの加速
  • Fossilにとってのアクセス可能な市場・流通チャネル・製品ラインナップ• ブランド・コーポレートパートナー(音楽、フィットネス、ヘルスケア、デジタル機器など)の獲得
  • Sonny Vu氏とMisFitを支えるソフトウェア・ハードウェアチームの獲得

とのことである。Fossilは今後MisFitを完全独立で運営していくとの見方もあるが、伝統的なジュエリーブランドと軒を連ねるわりには創業1984年と若い企業であり、今年になってからウェアラブルブームへの対応を進めてきているため、(ブランドはさておき)内部では積極的な統合化が進むと考えられる。Fossilでは先月、Fossil Qと呼ばれる見た目は普通の腕時計のようなスマートウォッチをIntelと共同で開発していた。デバイスを装着可能な身体の面積は限られており、Apple Watchに代表されるような異業種参入の結果、今後スマートウォッチ・デバイスが既存の腕時計のスペースを少しずつだが置き換えていくことは間違いない。

こうしたトレンドに対して既存の腕時計メーカーがスマートウォッチに取り組むのは誰もが想定するところだが、Fossilの面白いところは更に一歩進んで、生体情報獲得範囲を拡大することにより、自らを「腕時計=日中の生体情報取得」の「デバイスメーカー」から「活動・睡眠計=日中+夜間の総合的な生体情報取得」の「プラットフォーマー」へ脱皮を図ろうとしていることだと筆者は考えている。

生体情報収集の難しさ:Wear「able」であって、マストではない

ヘルステック関係者や医療業界の方なら分かると思うが、生体情報収集を狙ったウェアラブルデバイスの一番の課題は身につけ続けてもらえないことである。日経テクノロジーのテクノ大喜利などで多くの識者が「スマートウォッチがスマートフォンのように大半の消費者に普及するまでには20年程度かかる」と答えているように、これまで身につける習慣の無かったものを使い続けるようになるのは相当ハードルが高い。故に、東レ・NTT東京大学が開発を進める衣料品への生体センサー組み込みアプローチや、Nest Labsのようなスマートホーム・家電による行動情報収集による間接的なアプローチも検討されている(なお、11月上旬にJINSから発売されたJINS MEMEはウェアラブルとしては面白いコンセプト・テクノロジーを持っている)。そのような背景を踏まえると、Fossilの製品ラインナップとデザインタイプの拡大や、腕時計・アクセサリー以外へのデバイス拡大というのは、自社製品と接する時間をいかに伸ばして生体情報を囲い込むかという話であって、ハードウェアという枠を越えたビジネスモデルの転換を見据えた、非常に理に適った戦略に見えてくるのではないだろうか。

日本の腕時計メーカーはハードにこだわるあまりソニーを同じ道を辿っていないか?

とある雑誌の取材で某腕時計メーカーの方がスマートウォッチは腕時計の価値を損なわせるし、高級腕時計に取って代わるものではないというニュアンスの発言をされていた。確かにその通りかもしれないし、現在高級腕時計の売れ行きはすこぶる良いとのことだから当面は見過ごせるのかもしれないが、筆者の目には腕面積の奪い合いによるシェア漸減は確実に映るし、あらゆる生体情報収集機器とシームレスに繋がることが大きな価値として認められる時代が来ることは決して否定できるものではない。確かにソニーとシチズンによるwena wristのような新しい試みはあるが、これだけではFossil Qと同じく腕時計にセンサー連携機能をつけただけで、既存ハードウェアビジネスと本質は何も変わらないだろう。シチズンホールディングスはシチズン電子の世界最薄級スイッチ部品でスマホやウェアラブル機器向けビジネスが絶好調とのことで、今後は部品サプライヤーとしての道も残されているのかもしれない。しかしその姿は、ソニーがポータブルデバイスNo.1の座をAppleとSamusungに明け渡し、画像センサーメーカーに収まってしまったことと重なるような気がしてならない。

 

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