学校は1stセメスターの第9週が終わり、iOSのパーソナルプロジェクト期間になってから2週間が過ぎた。既にMVP (Minimum Viable Product) を作ってユーザテストを行う学生もいれば、アイデアのブレーンストーミングや実現可能性の検証を行う学生もおり、既に開発状況では差がついてきているようだ。

これまでに紹介してきた通り、Make SchoolはYC(Yコンビネータ)のW12(2012年冬学期)卒業生であるため、創業者との会話やYC卒業生の学校訪問などを通じてなにかとYCと接する機会が多い。また、クラスメートがW15の最終選考まで残るなど学生にとってもYCに入ることが一つの目標となっている。先週末から今週末にかけて、Make Hacks(Make School主催のHackathon)、Fenox Venture Capitalイベント、Y Combinator at Make Schoolと立て続けに関連イベントがあり、幸運にもPresidentのSam Altman氏やKat Manalac氏と話す機会があったため、最近のYCの動向についてまとめるとともに、今後の展望について考察したい。

the X Factor of tech

YCは2005年の設立以来、これまでに940社への投資を行い、AirbnbやDropbox、最近ではZenefitsやInstacart、Twitchといったユニコーン企業を輩出してきたシードアクセラレータだ。$120,000の投資と引き換えに7%の株式を取得し、年に2回、2.5ヶ月のプログラムを”Batch”形式で行うという新しい投資スタイルは、今では多くのアクセラレータの手本となっている。2015年の春にYCが受け取ったアプリケーションの数は6,700通、そのうち1.6%のみが合格通知を受け取ることができ、ハーバード大学の合格率5.3%よりも厳しく狭き門だ。プログラム開始後は他の何よりも「プロダクトにフォーカスすること」が教えられ、「10%/weekの成長率」が求められる。そして、現在ではYC出身企業の資金調達総額は$70億ドルを超え、評価総額は$650億ドルになるという。但し、全てのプログラム卒業企業が上手くいっているわけでもなく、およそ300社については既に存続していないそうだ。

YCombinatorマフィア

YCは他のアクセレレータと違い、オフィスや市場調査のツアーを提供していない。ではなぜスタートアップ企業はYCを目指すのだろうか?YC出身企業のファウンダーが口を揃えて言うのは、強力なメンター陣から得られるフィードバックをもとに徹底的なプロダクト改良ができること、そして、強固なアルムナイネットワークだ。YC卒業生は互いのことを”Family”だと言い、頻繁に情報交換を行っている。プログラム期間中にリリースしたプロダクトが卒業生ネットワークやHacker Newsに流れるだけでユーザ数が変局点を迎えるというのはよくある話だ。To CスタートアップにとってはYC卒業生が個人としてイノベーターやアーリーアダプターであり、また、To Bスタートアップにとっては意思決定と成長スピードの早いクライアントとなる。YCネットワークのなかで経済圏が出来上がっているため、創業間もないスタートアップにとっては非常に魅力的だ。

もう1点、Katが強調していたのは「あらゆる業界のエキスパートの意見をすぐに得られること」だ。YCの投資先は多岐にわたっており、アルムナイネットワークに質問すれば質の高い一次情報に即座にアクセスすることができる。経営コンサルティングの業界では卒業生が財界のみならず様々な分野で幅広く活躍しているため、そうしたコンタクトポイントがクライアントへの売り文句になることがある。例えばMcKinsey出身者はMcKinseyマフィアと呼ばれることもあるが、YCは創業者・VCのネットワークとしては一つの企業帯と同等の文化を持っているように感じている。将来はYCマフィアと呼ばれ、スタートアップ業界以外でも発言力を増していくのではないだろうか。

Google問題

YCはGoogle(現Alphabet)を意識しているところがあり、Samは「評価総額でGoogle(現Alphabet社)の時価総額(現在約$4,600億)を超えたい」とトークセッションの中で話していた。Googleほどまで影響力が大きくなってきたことへの自信の現れとも取れる発言だが、一方で2014年以降PresidentがPaul GrahamからSamに変わって以来の最近のYCの取り組みからは、彼らがGoogle同様の成長の課題を抱えているように見える。

一つ目の取り組みは”8-week fellowship”プログラムの開始である。YCのようなシードアクセラレータアクセラレータにとっての懸念は、将来のユニコーン企業を取りこぼし、他のアクセラレータのもとで成功を収めてしまうことだろう。そこでより早期の段階でのアプローチや地理的に広範なアプローチを可能にするため8週間の短期プログラムが始まった。しかしながら、YCの強みはメンターからのフィードバックと家族同様のアルムナイネットワークであり、関わる企業数が増加した際にこれまで同様の良さを保つことができるかは疑問である。Googleが手当たり次第買収してはサービス中止に至っていることを考えると、Acquhireとしての目的すら達成できないYCにとっては状況はより厳しいと見ざるをえないだろう。

二つ目の取り組みは先端領域やハードウェアへのシフトである。最近のYCのプログラム受け入れ実績としては、バイオ、ロケット、原子力といった初期投資・時間ともにかかる分野が増加しているとのこと。ある程度ソフトウェアスタートアップへの投資における見通しがつき、投資回収が見込めるようになってきたからこそ可能になったシフトであるが、先端領域・ハードウェアのスタートアップ創業者にとってたった2.5ヶ月のプログラムがどれほど意味のあるものになるだろうか。例えばハードウェア専門のアクセラレータであるHAXは深センでの量産サポートも行うなど、ハードウェアスタートアップにとっての課題そのものの解決にも直結するプログラムを提供している。こうした質問に対してKatは「ハードウェアスタートアップの場合もプログラム期間中にどこまで変化したいのかの目標を擦り合わせることで成長をブーストできる」との回答であった。Googleが自動運転やインフラに注力するのは(投資家からの圧力もあり)豊富な資金の投資先に腐心した結果という見方もあるが、YCも現在の名声を保ったままこれまで以上の成果を上げていくためにリスクを取らざるを得なかったのであろう(Sam自身は合成生物学の分野に非常に可能性を感じているらしく、何度か話のなかで触れていた)。

ユニコーン企業の創業者に必要な資質

余談だが、AirbnbやRedditなどYCの中でも成功した企業の創業者は他の創業者と何が違ったのかという質問に対する回答は”Toughness”や”Stubborn and Flexible”とのことであった。

参考資料

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